「古武術の動きがスポーツに役立つ?!」
日本のスポーツ界にそういう情報が広がり始めて二十年近くになるだろうか。
「どうすればバスケットが上手くなりますか?」一頃はそんな相談をされて困惑した武術家も多かったという。
確かに一流スポーツ選手の動きには優れた武術家の動きと共通する要素がある。
しかし、安直に武術の稽古を取り入れれば、効果があるかといえば、そういうことでもない。
長い棒状の道具を使うからといって、野球やゴルフの選手が古流剣術に入門して、伝統的な素振りや形をひたすら稽古しても、多くが徒労に終わる。
当たり前のことだが、海外の一流のアスリートは特段武術の稽古などしているわけではない。
では、世界水準の選手とそうでない選手の違いはどこにあるのか?
優れた武術家の身体技法を研究した上で、日本で世界水準の選手が生まれにくい競技、例えばテニスのジュニアの一般的なトレーニング風景を見ていると、問題点がよく見えると田川は指摘する。
確かに一流スポーツ選手の動きには優れた武術家の動きと共通する要素があるとはいえ、前述したように、彼らは武術を学んでいるわけではない。
では、世界水準の選手とそうでない選手の違いはどこにあるのか?
テニスコーチとして在米26年。田川平が様々なスポーツトレーニング研究の末に、出会ったのは「武術」の身体技法だった。
しかし、武術は数多くの流派があり、それぞれが独自の技術体系を持っている。それらの中から、特定の動きを、共通した身体技法として抽出して言語化するという作業はほとんど行われていなかった。
伝統武術の身体技法の一部分ではあるが、共通する身体技法として表現しようと試み、それをマスコミ等で幅広く公開したのが、甲野善紀氏である。
田川もその影響を受けた一人である。確かにそこには様々な問題解決の糸口があった。
ただ、甲野氏の身体技法研究はあくまで、武術研究家としてのものであって、スポーツの本場米国で、強烈な経験と実践をくぐりぬけてきた田川から見ると、そのままスポーツトレーニングとして展開するには、十分とは言えなかった。
そこを手がかりとして、田川は独自の研究を重ね、主に「球技」という枠組みのスポーツジャンルに特化した指導方法を開発していった。もちろんその主軸が「テニス」であることは言うまでもないが、球技としての視点は、サッカー、野球、バスケットボールなど幅広い分野に及ぶ。
また、そうした研究の結果、世界的な選手が育ち難い競技の問題は、実は日本のスポーツ界で「常識」とされているトレーニング方法にあることも見えてきた。
同時に、武術の身体技法の安易な導入のみでは、スポーツ選手の育成は難しいことも確信した。
若い選手に必要なのは「武術の身体技法」を覚えることではなく、「試合で通用する、選手のためのトレーニング方法」なのだから。
スポーツ選手は武術など知らなくてもいい。必要なのは「スポーツの正しい知識と技法」なのだ。
ちょっとした発想の転換で動きの質は変わる。だがスポーツの現場で重要なことは競技毎に専門の指導が行なえるかどうかであり、その技術者を育成できるかどうかだ。
私たち「武術とスポーツ研究会」では田川平のスポーツトレーニング理論と指導法を世に問い、普及させるための活動を行っている。
まずは、専門の「テニス」をベースとした活動だが、並行して、サッカー、野球、バスケットの指導者、または指導者志望の人材育成に対しても門戸を広げている。